『やがて君になる』のこと考えすぎて日常に支障 2
自分でも信じられないほどの熱量で、
私もうこの物語に恋してるんじゃないかと思います。
わたしに好きは、訪れない
新生徒会の役員となった侑は燈子からの想いを受けつつも、いまだに自分の中に特別な感情が芽生えないことを苦く感じていた。「わたしも、七海先輩のことを好きになりたい」。そう感じる侑だったが――。_amazon内容紹介より
恋愛感情や特別といった気持ちがわからない主人公、小糸侑。
そんな侑と同じ感覚を持つ"はず"だった七海燈子。
1巻最終話で、燈子先輩がなぜ侑のことを好きになったがが明かされました。2巻ではその2人の関係性がさらに変化していきます。
仕草が語る表情
2巻はキャラクターの仕草が如実に心情を表しているように感じました。1巻の物と人の距離を心理的距離感に置き換えるだけでも分かりやすいしうまい表現だな~、と思っていたらさらに奥がありました。天才?
例えば次のシーンです。
放課後、生徒会活動が終わりみんなが帰路につこうとしています。
そんな中燈子先輩はパソコンでやり残したことがあるからと一人居残りすることを
メンバーに告げ、そして次のコマ。
見ました?燈子先輩の手。
何を言ったわけでもないですが、燈子先輩のなにか言いたそうな表情と少し心細そうに机の下に入れて指先をそっと合わせている手。侑も一緒に残ってほしいけど、そんなこと言えないけど残ってほしい全力アピールか わ い す ぎ。
訴えかけている顔とは裏腹に手が不安そうなのがですね、もうね、尊い(語彙の消失)。そんな燈子先輩の様子を読み取って用もないのに残ってあげる侑は、やっぱり優しいです。
さらに次のシーン。次は気づいた中でもエベレスト萌えです。極寒のエベレストに桜が咲きました。問答の末、燈子先輩の「キスしたい」を渋々受け入れることにした侑。
はい。桜がね、咲き乱れてちょっと画面が見えづらくなってしまったかと思いますけどもね、続けます。
渋々受け入れたとはいっても不意打ちではなく、侑にとって初めて自分で受け入れることを了承したキスです。その緊張感が燈子先輩の服をギュッと握った手と不自然に浮いたかかとから伝わってきてですね、もうね、尊い(語彙の消失再び)。
椅子に座ったまま足に力入るとつま先よりもかかとが浮くんですよね。燈子先輩の服の皺濃いし飄々としてるように見える侑の緊張感がものすごい伝わってきてもう、は~、ありがとうございます(?)。欲を言うならばキス後の侑の表情が見たかったです。
「好き」と「特別」
2巻は新キャラが出てきたり1巻のキャラがより掘り下げられたりしていきますが、そんなキャラの一人。槙くん。
槙くんをざっくり紹介するならば「傍観者」です。
彼は自分が舞台に上がることを嫌います。あくまでも観客として物語を傍観する立場にいたい人です。さながら百合男子。
侑と燈子先輩のキスを偶然目撃した槙くんは2人の物語に当然興味を持ちます。
そしていきなり侑に「昨日(のキス)見ちゃったんだ ごめん」とゆさぶりをかけます。「傍観者」でいたいと思ってる割には随分と不用意に物語に突っ込んでいきます彼。コナンくんかよ。だから今まで巻き込まれてきたんじゃないんかなぁ、と思ったのですが次の侑のリアクション見て槙くんのこと頭から吹き飛びました。
侑「七海先輩には言わないで 見ちゃったってこと」
槙「(略)...どうして?」
侑「余計なこと言って怖い思いさせたくない」
ここでとっさに燈子先輩の心配をするんですよ、侑。
自分とのキスが周りに知られることによって敬遠され孤立する燈子先輩。そんな想像をして背筋に悪寒が走る侑。ここまで自分のことは一切なし。自分の心配より、燈子先輩。しかも自分でその様子に気づいてないようです。
読者このシーン完全に槙くんとシンクロ率200%ですよ。「最初にする心配がそれなんだ おもしろい」。槙くんはそんな侑の様子をみて言います。
「小糸さんも"ちゃんと"七海先輩のこと好きなんだ」
"ちゃんと"。はい出ました地雷ワード"ちゃんと好き"。"ちゃんと好き"ってなんなんでしょう。"ちゃんと"してない好きはなに?
さりげなく使われてますが、このセリフ読んだとき指のささくれが第一関節あたりまでビーッと切れずに引っ張られたような気持ちになりました。
例に漏れず侑もこの言葉に引っかかってますが、うまく否定する言葉が見つからず槙くんからは照れ隠しだと思われてその場は終わります。槙くんちゃうねん。そうじゃないねん。ちゃうねん。
場所は変わって侑の家。燈子先輩がくれたプラネタリウムを抱くようにして横になりながら侑は思います「心臓が選んでくれたら」。
このセリフは侑の家に来たとき燈子先輩が言った「いま心臓すっごいどきどきしてる」というセリフを受けて、自分もどきどきしたりすれば「好き」や「特別」がわかるのに、という意味です(多分)。
「心臓が選んでくれたらいいのに」のコマ1つ前には燈子先輩の後ろ姿が浮かび上がってます。はい、ちょっと待ってくださいね。ここでもう侑は無意識に燈子先輩を選びたいと思ってるんですよ。あれ?侑は誰のことも「特別」と思えないはずなのに、特定の1人をここで思い浮かべていますね?これってもう燈子先輩は侑の「特別」なんじゃないんですかね。
別のシーンで侑が燈子先輩の心配したのは自分がお人好しだからであって、燈子先輩じゃなくてもそうした。と、自分の気持ちを否定するくだりがあります。
ここがミソです。要注意です。
侑は恐らくまだよくわかってないと思いますが、「好き」という感覚を持ち得ない人は少女漫画にありがちな画面いっぱいに星が飛び散ってドキがムネムネするような感覚がないのでこれは「好き」じゃない違うって否定しがちなんですよ。侑もまずこれだと思って大丈夫です(勝手に)。
ちなみに燈子先輩が侑の家へ来たときに聞いた「人を好きになると そんなふうになっちゃうんですか」に先輩が「そうだよ... いま心臓すっごいどきどきしてる」と返したのも、どきどきしないからこれは「好き」じゃないと思い込む一因になってます。では実際に「好き」なのかと言われると微妙なところで、それは下記で記載します。
前置きが長すぎたというか前置きが本編みたいなとこありますが、ここから「好き」と「特別」の違いが重要になります。胸の高揚を伴う「好き」という感覚を持てない人でも、人を「特別」と思うことはできるんですよ。その人のことを大切に思い一緒にいたいと思う気持ち。侑はこの時点で「特別」を燈子先輩に抱き始めているんじゃないでしょうか。
「好き」と「特別」の違い、これから先もっと詳細に書いてくれるんですかね。どうでしょう。むしろこの方向に進むのかもわからないので微妙ですし、感覚は人によって様々なので上記はあくまで個人的な見解なんですけどね。
10話と十話
2巻最大の山場、10話と十話。
交通事故で亡くなった姉の代わりを演じることで、姉の不在を認めまいとする燈子先輩。先輩が固執する劇は、彼女の姉が7年前に行うはずのものでした。その事実を知った侑は、燈子先輩に劇をやめるよう打診します。
侑は燈子先輩のことが心配でした。無理をしているんじゃないかって。そのままの燈子先輩でも好きな人はいる。現に私は飾らないあなたを知っていて、そんなあなたを好きになりたい。そう思った侑が先輩に一歩踏み込んだ瞬間、先輩は取りつくしまもなく拒絶します。そして侑がついてこなくても劇はやると宣言します。
今まで「優しい」とか「好き」と言われて慕われていた侑は、燈子先輩は自分を拒絶しないと思い込んでいました。しかし燈子先輩は自分から離れていく可能性もあるということに気づきます。
ここで侑は葛藤します。
燈子先輩が離れていくのはいやだ。燈子先輩を好きになりたい。「(「好き」を知らない私を好きになって一緒にいてくれる燈子)先輩と一緒にいられないなら わたしに誰が好きになれるの」いや、なれない(反語)。なんだかんだ侑も寂しくて、一緒にいられる時間を捨てたくはない。長年ずっと願ってきた「好き」や「特別」を知りたい気持ちと燈子先輩と一緒にいたい気持ちを比べて、後者が勝った。これはもう、燈子先輩は侑の「特別」以外の何物でもないんじゃないですかね。侑が気づいてないだけで。残酷な話。
10話と十話で関係性がぐるんぐるん変わるので思考回路がショート寸前。つらい。これつっらいですね。少女漫画によく書いてあるような「好き」を持てないと認めるには相当長い時間と覚悟がいるんですけど、その過程全部すっ飛ばして封じ込めましたからね、侑。
ここまで来て帯の「わたしに好きは、訪れない。」が180度違った意味を持ち始めます。侑が自分の状況を観察して言っている言葉かと思いきや、自分に言い聞かせるための言葉でした。侑に「好き」が訪れたら、先輩とは一緒にいられなくなるからです。あ~え~~~これ3巻どうなるの。どこに着地するのかまっったく読めないです。あ゛ー続き気になる。あと10話と十話の侑と燈子先輩の立ち位置や空気感、セリフもなにもかもが素晴らしいのでぜひ原作読んでみてください。
気づいた小ネタシリーズ
・物語の転換期は電車が走っている(1巻はキス、2巻は拒絶)
・なに言いかけた?侑なにいいかけたの??"す"???
・背景に何気なく書かれた短歌が後半の川べりシーンの伏線?こういう細かい伏線大好き。
P.72「梓弓 引けど引かねど 昔より 心は君に 寄りにしものを」
歌意:あなたが私の心を引こうが引くまいが、昔から私の心はあなたに寄り添って離れないでいたのに
P.73「わが身は今ぞ 消えはてぬる」
歌意:離れ去ってしまう人を引き止めることができなくて私は今、消え果ててしまう
個人的な所見と希望 2
好きつらい好き。1巻の感想(http://maayada.hatenablog.com/)で侑が燈子先輩からの好意に罪悪感を持ち始めたら読むのしんどくなるなぁ、と書きましたが前半で一通り萌え尽くしたあと後半の展開読んでそっと横になりました。侑はまだ「好き」という気持ちを持つこと諦めてない。この点すっかり抜けてましたね。
十話で燈子先輩が意識的に「好き」という言葉を束縛に使ってるの知って、まぁそうだろうとは思ってましたがほんっっと「ずるい」ですね。自分がその言葉から逃れられず演じることをやめないのに、まったく同じ呪いを侑にかけました。七海燈子~~~~!!ずるい女~~~!!でも侑に対して右往左往する様がかわいくて憎めない~~ずるいーーー!!!
そしてやっぱりパワーバランスは圧倒的に燈子先輩に傾いたままです。片思いって、思われてるほうが相手のことを好きになるか拒否するか、選択肢があると思うんですよ。
でも侑にはこの選択肢がない。受け入れる、という選択肢しかない。燈子先輩と一緒にいたいと自覚したからには、もう受け入れるしかないんです。人形のように。燈子先輩は侑を断ち切れることを示しました。侑にはそれができなかったんです。書いてるうちに侑のほうが燈子先輩に依存してる気がしてきました。まあ、圧倒的に立場が弱いのは侑です。「好き」を持ち得ない人の「特別」になりそうな枠はなによりも強いです。絶対に手放したくない。
えー、3巻ほんとどうなるんですかもう待てないです。佐伯先輩は燈子先輩に踏み込んで来なさそうなのがわかったので、こよみちゃん。こよみちゃんは小説書いてたりで人を客観的に見るのに長けていそうなので、侑と燈子先輩のこと気づいて侑になにか言ってほしいです。なにかってなんだろう。なんだろう??わからない!でも今のままつらい~。
はー、とまぁこんな感じで2巻出たばっかりですけど明日にでも3巻読みたいです。
みなさんも気になったら書店へレッツゴー!!Kindleで買えば今すぐにでも読めますよ!!