真逆で理解できない二人の歩みー村田沙耶香『マウス』

 これは「百合作品」アドベントカレンダー8日目の記事です。

 

今日は小説です。村田沙耶香先生の『マウス』。

※ネタバレがあります。未読の方はご注意ください。

 

マウス (講談社文庫)

マウス (講談社文庫)

 

 私は内気な女子です――無言でそう訴えながら新しい教室へ入っていく。早く同じような風貌の「大人しい」友だちを見つけなくては。小学五年の律(りつ)は目立たないことで居場所を守ってきた。しかしクラス替えで一緒になったのは友人もいず協調性もない「浮いた」存在の塚本瀬里奈。彼女が臆病な律を変えていく。(Amazon商品紹介より)

 

 人の輪から弾かれないように嫌われないように、常に自分の役割を探してそこに自分を当てはめて生きている律。

人の輪から外れても嫌われても、常に自分の内側にベクトルが向いている瀬里奈。

律は最初そんな瀬里奈が全く理解できず、憤りすら覚えています。しかし瀬里奈の周りへの無関心は自分とは真逆で、徐々に興味を覚えていきます。

 律が起こしたとある行動をきっかけに瀬里奈は劇的に変わり、元々の容姿も相まってスクールカーストを駆け上がっていくようになります。律はそんな瀬里奈に自分を重ねて得意な気持ち半分、言い表せない複雑な気持ち半分。

 

 特別

 スクールカーストトップに駆け上がった瀬里奈ですが、実は周りのことに無関心なのは変わりないです。いつも自信なさげに泣いて怯えていたのが、『くるみ割り人形』のマリーになりきることで堂々と振る舞えるようになっていたのです。なのでマリーにならなければ怯えて外出もできませんし、基本的に周りのことには無関心です。

律以外。

瀬里奈はマリーになっていると疲れてくるので、素の自分を知っている律といると安らぐと言います。…あれ、やが君?

 

変えたい変わりたい?

 律はいつまでも絵本の世界にいちゃダメだと瀬里奈を諭します。素の自分を出していかないといけないと言います。しかしそれは、周りを気にせず自分の好きなことをしていても許容される瀬里奈への嫉妬と羨望がすべてごっちゃになっています。

瀬里奈を変えようとする試行錯誤する段階で、律は無理やり周りに合わせている自分や極端に周りの反応を恐れている自分を指摘され逆上し、喧嘩に発展します。

 そして律は指摘された自分の殻を初めて真正面から見据えます。同じ頃、瀬里奈も。

 

 真逆で理解できない二人が、お互いを変だ変だと言い合いながらぎこちなく歩んでいくのがとてもいいなと思いました。