『やがて君になる』のこと考えすぎて日常に支障

おかしい。

この漫画は既刊2巻のはずなのになぜかうちに2桁ある。

 

好きを知らない少女が出会う、一筋縄ではいかない――女の子同士の恋愛
恋する気持ちがわからず悩みを抱え侑は、先輩・燈子が告白を受ける場面に出会う。誰からの告白にも心を動かされないという燈子に共感を覚える侑だが、やがて燈子から思わぬ言葉を告げられる。「君のことが好き」_amazon商品紹介より 

恋愛感情や特別といった気持ちがわからない主人公、小糸侑。

そんな侑と同じ感覚を持つ"はず"だった七海燈子。

この2人を軸にして物語は展開していきます。

 

「特別」のはじまり

 物語序盤で侑は中学校の同級生から告白されてますが、「特別」という気持ちがわからないため1か月間返事ができず悩んでいます。ひょんなことから燈子先輩も同じような感覚を持っていると知った侑は、先輩に相談。同じ感覚を共有できる人として侑は恐らく初めて、恋愛感情や特別という気持ちがよくわからないといった悩みを打ち明けます。そして無事同級生への告白の返事が済んだと思った次の瞬間、燈子先輩から告げられた言葉。

 

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 「だって私 君のこと好きになりそう」

 

このときの読者の心情を侑が代弁してくれてます。

 「この人が何を言っているのか わからない」

 

 うん、私もまったくわかりません。一語一語、単語で区切って意味を咀嚼してみてもやっぱりわかりませんでした。突然なんぞ。侑からすると「やっと出会えた同じ気持ちを共有できる人」がよりにもよって自分のことを好きになってしまったという状況。

 なぜ燈子先輩が侑のことを好きになったかは後半で明らかになりますが、ここでは燈子先輩は話をはぐらかし侑は事態がよく呑み込めないままその場を離れることになります。

 

2人の距離感

「特別」を意識し始めた燈子先輩と侑の距離感が素晴らしかわいいです。

眉目秀麗、成績優秀でクールな印象の燈子先輩が「好き」という初めての気持ちに振り回されて右往左往する様が大変かわいらしい。
かわいらしいというか「あ゛ーかわいいなぁもうーー!!なんなのもうーー!!!」といった具合で両目を押さえて天を仰ぐかわいさ。

侑が飲んだジュースに関節キスを意識して一人こっそり頬を染める燈子先輩とか、
どう考えても苦しい言い訳つけて休日に侑に会いに来る燈子先輩とか。
そしてそんな燈子先輩を受け流しまくる侑。
受け流してる自覚も恐らくないであろう侑。
ナチュラルにキラーパス出してきて確実に燈子先輩を萌え殺しにかかっているのにまったく自覚なし。なんなんだ。かわいい×かわいい=めっちゃかわいいじゃないですか。なんなんだ(2回目)。

 

「ずるい」の意味

 さらにこの漫画はディープインパクトばりの萌えだけでは終わらず、登場人物の内面を丁寧に追っていきます。

 最初は半信半疑だった侑も数々のアプローチを受けて燈子先輩の好きという気持ちに確信を持ち始めます。さらに燈子先輩の気持ちを確かめるべく、人から見えないところでそっと手をつなぐ侑。まぁ大胆。そんな侑の突然の行動に思いっきり頬を染めて俯く燈子先輩。そして燈子先輩の様子をこっそり窺っていた侑のリアクションがこちらです。

 

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 予 想 外。よくある恋愛漫画なら「えっ!?もしかして〇〇くんも私のことを...!(飛び散る星」といった感じの気持ちが働きますが、かたや侑。侑が燈子先輩へ感じたのは「ずるい」という気持ち。同じだと思っていた燈子先輩がすでに「特別」を知っていた。自分より先に「特別」を知った燈子先輩は「ずるい」んです。

 この「ずるい」の感情はいろんな方が言及していた燈子先輩に対しての「嫉妬」や「悔しさ」「羨望」もそうなのですが、私は「寂しさ」と「不安」が侑の中で一番強かったんじゃないかなと思います。友達にも相談できず、ずっと一人で抱え込んでいた悩みをようやくわかってくれる人ができた。自分と同じだと思っていたのに、一緒だと思っていたのに。先輩は「特別」を知って変わってしまった。また私一人だけ取り残された。そういった気持ちが、先述の気持ちとごっちゃになって出てきたのが「ずるい」という言葉と表情。すんごいなこの漫画。

 

 ちなみに侑の「寂しい」気持ちが、後半の燈子先輩からの申し出を受けるきっかけにもなっているんじゃないかと推測してます。手の届かないところに行ってしまった先輩は、しかし侑のそばにいることを望んでいます。かつては自分と同じ場所にいた先輩が引っ張りあげてくれるなら、もしかしたら自分も変われるかもしれないという思いもあったかもしれません。それと「特別」がわからず悩んでいる侑だからこそ、やっと「特別」がわかった燈子先輩からその気持ちを奪うことができないんだと思います。燈子先輩はそれをわかっていながら利用している節があります。だから「ずるい」。

 

「特別」を知りたい侑と「特別」になりたくない燈子先輩

 侑を「特別」と思う燈子先輩は、しかし人の「特別」にはなりたくないと言います。人を「特別」と思えない侑だからこそ好きになったと。かたや侑は、自分のことを「特別」と思ってくれている燈子先輩のようになりたいと願っています。

 ここに『やがて君になる』最大の難関があります。

 「特別」を持ち得ないからこそ侑を好きになった燈子先輩は、侑が「特別」を知ったとき好きなままでいられるのでしょうか。燈子先輩の恋は実った瞬間に終りを迎えるのでは?

 え、なにこれつらい。この難関部どうなるんでしょうね。まっったくわかりません読めません。ようやく「特別」を知った燈子先輩を応援したい気持ちもありますが、侑に「特別」を知ってもらいたい気持ちもあります。こちらを立てればあちらが立たずです。難関部がこれから先どう展開しどこへ着地するのかほんとうに楽しみです。

 

個人的な所見と希望

 1巻通して何度か言われていますが、燈子先輩は「ずるい」です。彼女は意識的に侑との距離を調整し、付かず離れずのアプローチをしてきます。もちろんそれは好意から来ているためされている方はイヤな気はしません。しかし気持ちに大きな差があり、好意を受ける一方のほうはただ何も考えず受け取っているわけではありません。漫画の中でも燈子先輩に眩しい表情を向ける侑の描写がいくつか出てくるように、少しずつ、少しずつ受け取った気持ちが積み重なり重みが増してくるはずです。そして侑は優しい子です。もらってばかりの気持ちにいつか堪えきれずつぶされてしまいそうで心配です(母親面)。

 今はまだ燈子先輩が侑の気持ちを一応は尊重しているように見えますが、すでにパワーバランスは圧倒的に燈子先輩に傾いています。もう違うところへ行ってしまったとはいえやっと見つけた唯一の理解者を侑は絶対に手放したくないはずですから。

 ちなみにこれはほんとうにどうでもいい話ですが、侑が燈子先輩からの気持ちに罪悪感を持ち始めたら個人的に読むのがしんどくなるなぁ、と思っています。好意は時に悪意よりも重い。

 いろいろ気付いた佐伯先輩が燈子先輩を止めに入ってくれる展開だったらおもしろいかも。かも。佐伯先輩とこよみも好きだからもっと物語に絡んできてくれないかな~。等など考えて、気が付いたら1日終わってます。もうほんとにコマ1つ取っても人と物との距離感や空白の使い方が上手すぎて語りつくせません。

 みなさん『やがて君になる』1巻、気になったらぜひお手に取ってみてください。