凍ったシャボン玉を思わせるー恩田陸『蛇行する川のほとり』

 これは「百合作品」アドベントカレンダー5日目の記事です。

5日目の今日は漫画から離れて小説です。恩田陸先生の『蛇行する川のほとり』。



百合の定義がガバガバ

 この本を語るにあたり、百合について少しお話します。
まず最初に、私は百合の定義がガバガバです。女性自認の方が同じく女性自認の方に向ける感情を全部ひっくるめて「百合」と呼んでいます。
なので、好意はもちろんのこと嫌っていようが憎んでいようがその感情がひとえに相手に向かっていれば百合です。
人様の百合の定義に異をとなえるつもりは毛頭ありませんが、私のはこうです。

凍ったシャボン玉にそっと触れる

 『蛇行する川のほとり』で特筆すべきのはその透明感です。
シャボン玉を凍らせて光に透かしたような透明感ある少女性を書ききってる本はなかなか見つかりません。
この本ではそれを間近で見ることができます。
主人公の毬子がその少女性の持ち主です。
本人ですら気づいていないその光輝く一瞬に魅せられた先輩二人、香澄と芳野が毬子を夏休みの美術合宿に誘ったことから物語は始まります。
※香澄と芳野もそれぞれに少女性を持っていますが、明確に強調されているのは毬子。

増水する川

 憧れの先輩に誘われた毬子は浮き足立ちますが、その直後から頭の隅では小さくアラームが鳴り響き続けます。
その警鐘は毬子の過去へと繋がるもので、香澄と芳野の過去とも密接に繋がっています。
そしてその過去のために香澄と芳野は同じ鎖に縛られています。

絡み合う鎖

 同じ過去に縛られる香澄と芳野は、端から見るとさばけてますがその実抜けられない共依存の関係性にあります。
そしてその鎖を毬子にもかけようとする方と、無意識にストッパーになる方。
まるで二人で一対になっているようです。
香澄と芳野、きっちりした方とおっとしりした方、神経質と大胆、鎖をかける方とかけられる方。
読んでるうちにパワーバランスが変わり、どちらがどちらか迷い始めた頃に起こる事件。

 最初に百合の定義に触れたのはこのためです。
香澄と芳野は鎖に絡めとられた関係であり、それは純粋な好意だけではないからです。
お互いがお互いに罪の意識のようなものも感じていたり、畏怖や依存、もちろん好意もありますがそれだけじゃない複雑な感情が絡まり合っています。
そんな二人が毬子を巻き込んで行う夏の合宿。


 一旦読み始めると最後までノンストップで読み進めてしまい、そして読後は夏の夕暮れを思わせる本だと思います。
冬真っ盛りの今、夏が恋しくなったらぜひどうぞ。