割り切りたい割り切れない関係ーユキムラ『傷心』

 これは「百合作品」アドベントカレンダー2日目の記事です。

 

 2日目の作品はこちら、ユキムラ先生の『傷心』。

 

傷心 (ひらり、コミックス)

傷心 (ひらり、コミックス)

 

 

 

 表紙買いです。距離感から明らかにわかるのに一切交ざらない視線と浮かない表情、唯一触れ合っているのが指先のみ。そして『傷心』というタイトル。雰囲気ありまくりですよね。買いです。

 

 『傷心』は番外編を含めた8つの短編からできています。

みんなそれぞれ好きなので全部語りたいほどですが、今回はその中で表題作『傷心』二人の話をします。ほんとは全部話したいんですけど。特に『Armet』を。でも今回は『傷心』二人に絞ります。

 ※好きなところを語るにあたり、物語の核心部に触れてるかもしれません。ネタバレ苦手な人はご注意ください。

 

「ねぇ 私とどう? そんな風に声を掛けた」

 

「ーー遊びでいいなら」

 

「うれしい」 (『傷心』P.3)

 

 こんな会話から物語は始まります。

振られて寂しかったのでサクッと遊びで体の関係。

そこから2年経った今でも二人の関係は変わらず、遊びのままーー?

というのがざっくり大筋です。

社会人セフレ百合です。希少です。ありがとうございます。

 

 2年の間にとっくに麻矢さん(表紙左)はエリさん(表紙右)に惚れていますが、

面倒くさい女と思われるのがイヤでひた隠しにしています。

一方エリさんはとある過去からもう恋愛で傷つきたくないと、自分の気持ちに蓋をしています。

そしてお互いに自分のことを面倒くさい女だと思って踏み出さないんですよ。

クッキーつまむようにサックリ体の関係は結んで2年も継続しているのに、そんな二人だからこそ距離感を測り測って2年も不動。いいですね。

大人だから、と関係を割り切っているように見せて全然割り切れておらず、でも自分から踏み出す決心もつかず、

「いつまで遊んでくれるのかしらねぇ…?」  (『傷心』P.8)

と一人ごちるところが不器用で愛おしいなって思います。

 

 ようやくお互いの気持ちを伝える段になっても、恐る恐る

「今更…こんな事… 伝えるのが怖くて…」 (『傷心』P.16)

 などと不器用さ全開で、あんまりかわいいので机に頭を強打しながら読み進めるハメになります。

 

 あと二人の関係を象徴するのにタトゥーが使われており、このタトゥーかなりいい味出しています。これまでと、これからの象徴としてのタトゥー。

この二人がどんなきっかけでどう行動するのか、気になった方はぜひ読んでみてくださいね。

 また、巻末に二人のその後を描いた番外編『告白』がありますので、『傷心』との変化を思う存分楽しんでほしいです。思わず本閉じて「かわいいな!!?」と叫びたくなるはずです。